研究ビジョン
本研究室では、運動による身体への生理的、医学的効果及びその作用メカニズムを解明し、運動医学(Exercise Medicine)の
視点から人々の健康増進やアスリートのコンディショニングに応用するための知見を得ることを目指しています。また、スポーツ医科学分野における研究知見(エビデンス)をスポーツ現場や実社会へ還元するための実践的な取り組み(Translational Research)や方策について取り組んでいます。
Project1:骨格筋における性ホルモン産生機構の解明
ヒト骨格筋は体重の約40%を占める臓器です。近年、骨格筋は運動器としてだけでなく、様々な生理活性物質を産生・分泌する内分泌器官としての働きが示されています。私たちは、性ホルモン(男性ホルモン・女性ホルモン)が性腺以外の組織、骨格筋においても局所にて産生される機構を明らかにしました。現在、骨格筋局所における性ホルモン産生機構のメカニズムについて検討しています。
<関連論文>
・Katsuji Aizawa, Motoyuki Iemitsu, Seiji Maeda, Subrina Jesmin, Takeshi Otsuki, Chishimba N Mowa,Takashi
Miyauchi, Noboru Mesaki. Expression of steroidogenic enzymes and synthesis of sex steroid hormones from DHEA in
skeletal muscle of rats. Am J Physiol Endocrinol Metab, 292, 571-576, 2007.
・Basic Biology and Current Understanding of Skeletal Muscle. Editor: Kunihiro Sakuma. NOVA Publishers,2013, 8,
Chapter 10. Skeletal Muscle Adaptation and Local Steroidogenesis. Katsuji Aizawa. 289-302.
・Current Research Trends in Skeletal Muscle.Editor: Kunihiro Sakuma. Research Signpost, 2012, 5, 10: The role
of steroidogenesis in skeletal muscle. Katsuji Aizawa. 159-169.
・相澤勝治.骨格筋の肥大・萎縮・再生の不思議さをさぐる:筋局所アンドロゲン産生と骨格筋の肥大. 体育の科学,66巻9号,
643-647,2016.
・相澤勝治.特集 男性のアンチエイジングとテストステロン:筋肉でのテストステロン合成.アンチ・エイジング医学2016年6月号,
12巻3号,34-40,2016.
Project2:運動(メカニカルストレス)と骨格筋の可塑性
骨格筋は可塑性に富んだ組織であり、運動や不活動など様々なストレスに応答します。例えば、レジスタンス運動は筋力増加や筋肥大を導く一方、長期間の不活動は筋萎縮を引き起こすことが知られています。また高齢期では、加齢に伴い筋力や筋量が低下する加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)が問題となっています。サルコペニアは、身体活動量の低下、生活習慣病の発症リスクと関連することから、サルコペニアの発症メカニズムや予防・改善策を明らかにすることは重要な健康課題でと捉えることができます。そこで、私たちは骨格筋代謝に働くアンドロゲンに着目し、運動による骨格筋局所のアンドロゲン産生の活性化がサルコペニア予防・改善に果たす役割について検討をしています。
<関連論文>
・Katsuji Aizawa, Motoyuki Iemitsu, Seiji Maeda, Takeshi Otsuki, Koji Sato, Takashi Ushida, NoboruMesaki,
Takayuki Akimoto. Acute exercise activates local bioactive androgen metabolism in skeletalmuscle. Steroids.
75: 219-223, 2010.
・Katsuji Aizawa, Motoyuki Iemitsu, Takeshi Otsuki, Seiji Maeda, Takashi Miyauchi, Noboru Mesaki.Sex differences
in steroidogenesis in skeletal muscle following a single bout of exercise in rats. J Appl Physiol. 104: 67-74, 2008.
・Katsuji Aizawa, Motoyuki Iemitsu, Seiji Maeda, Noboru Mesaki, Takashi Ushida, Takayuki Akimoto. Endurance
exercise training enhances local sex steroidogenesis in skeletal muscle. Med Sci Sports Exerc. 43(11):2072-80.2011.
2012年に開催されたロンドンオリンピックでは女性の金メダル数が男性を上回る結果となっており、我が国における女性アスリートの競技力向上にはめざましいものがあります。その一方、女性アスリート特有の疾患として女性アスリートの三主徴(エネルギー不足、月経異常、骨粗鬆症)が国内外問わず問題になっています。このようなスポーツ医・科学的諸問題に直面している女性アスリートのコンディションを改善するための方策として、女性アスリート自身がスポーツ医・科学情報を理解し活用する能力『女性アスリートリテラシー』を高めることが競技力向上だけでなく、充実したアスリートライフを送ることにつながると考えられます。本プロジェクトでは、女性アスリートコンディショニングプログラムの開発・効果検証を通して、女性アスリートへのスポーツ医・科学サポートの方策について検討を進めています。
<関連発表>
・Katsuji Aizawa, Atsushi Iwasaki, Kae Yanagisawa, Arai Chiaki, Koichiro Hayashi, Yuki Nakamura,
Masamitsu Tomikawa, Eiji1 Watanabe, Takeshi Kukidome. Effect of Improving Physical Conditions and
Female Athlete Literacy Behaviors: Intervention Study. Translational Journal of the American College of
Sports Medicine: Volume 4.235–241、2019.
・Katsuji Aizawa, Chikako Nakahori, Takayuki Akimoto, Fuminori Kimura, Kouichiro Hayashi, Ichiro Kono, Noboru
Mesaki.Changes of pituitary, adrenal and gonadal hormones during competition amongfemale soccer players.J
Sports Med Physical Fit. 46, 322-327, 2006.
・Katsuji Aizawa, Koichiro Hayashi, Noboru Mesaki. Relationship of muscle strength with
dehydroepiandrosterone sulfate (DHEAS), testosterone and insulin-like growth factor-I in male and female
athletes.Adv. Exerc. Sports Physiol. 12, 29-34, 2006.
・相澤勝治.女性アスリートの医科学的サポートを考える:女性アスリートの筋力増強.臨床スポーツ医学,30巻2号,
167-171,2013.
Project4:アスリートのコンディショニングに関する研究
アスリートの体重管理は試合に向けたコンディショニングにおいて重要です。スポーツ界におけるアスリートの減量は、その目的や競技特性により減量方法も様々です。その中でもアスリートの減量法で問題とされている短期的な急速減量は、主にレスリングや柔道などの体重階級制競技にみられます。飲水制限やサウナによる急速減量は、脱水症やコンディションの低下を招く危険性が高いことから、スポーツ医科学視点から急速減量を予防するための取り組みは重要と考えられます。そこで、アスーリートのセルフコンディショニングを高めるための取り組みとして、スポーツ医科学情報を実際のスポーツ現場(アスリートや指導者)へ還元するためのコンディショニングアプーローチの実践研究に取り組んでいます。
<関連論文>
・相澤勝治,久木留毅,増島 篤,中島耕平,坂本静男,鳥羽泰光,西牧謙吾,細川 完,青山 晴子,大庭治雄.ジュニアレスリング選
手における試合に向けた減量の実態.日本臨床スポーツ医学会誌,13 巻2号,214-219,2005.
・相澤勝治.レスリング競技におけるスポーツ医科学情報の戦略的活用―実践活用システムの構築―.トレーニング科学,
20 巻2号,151-157,2008.
・相澤勝治,久木留毅,青山晴子,小松裕,中嶋耕平,増島 篤. ジュニアレスラーにおけるスポーツ医科学情報を活用した減量時
コンディションの改善効果. 日本臨床スポーツ医学会誌,21 巻1号,211-219,2013.
Project5:若年層における体育・スポーツが果たす役割
若年層の体力低下が問題視されて久しい中、この要因の一つに運動習慣のある人の割合が低いことが指摘されています。内閣府「体力・スポーツに関する世論調査」(平成21年度)に基づく文部科学省推計によると、成人の週1回以上運動・スポーツを行う者の割合は、全体で45.3%でした。さらに年代別で比較すると、20-29歳の週1回以上運動・スポーツを行う者の割合は27.7%と全世代の中で最も運動の実施率が低いことが指摘されています。大学生においては、運動実施率の低下は体力低下だけでなく、学業や課外活動など学生生活の質にも影響すると考えられています。大学体育において、大学生における運動習慣の実態調査をもとに、大学におけるスポーツが果たす役割と可能性について研究しています。
<関連論文>
・相澤勝治. 大学とスポーツ: 大学生における運動習慣の実態調査から.IDE現代の高等教育,2017年7月号,16-20,2017.
・相澤勝治,斎藤 実,久木留毅.大学生における運動習慣の実態調査.専修大学スポーツ研究所紀要,37号35-41,2014.
ウェルビーイングとは、自分自身の日常が充実している状態と考えることができます。その土台として、運動・食事・休養のバランスを考えた生活が大切となります。アスリートは、目標の試合に向けて最善のパフォーマンスを発揮するために日々、高度なトレーニングを行なっています。その中で、自分の心身のコンディション(調子)をより良い状態に維持または向上させること、すなわち、「コンディショニング」の実践を取り入れています。このコンディショニングの考え方は、日常生活でも取り入れ、個々人のウェルビーイングを高めるために必要なスキルとしても役立つと考えています。本プロジェクトでは、「スポーツを通じたウェルビーイングプログラム」を作成し、地域、企業、自治体等にてその実践効果について検討をしています。